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第2話・幽霊島へ行きまして 9

Author: 阿良春季
last update Last Updated: 2025-06-07 07:43:19

「ああっ!ひゃううっ!!」

 メリメリと未通の狭路を無理矢理押し広げられる痛みにミオの両眼から思わず涙が溢れた。

 レイはゆっくりとしかし確実にズブズブと腰を進めて、やがてミオの花芯の最奥まで貫く。

「誰も助けちゃくれないんだよ、この世界は」

 体が繋がったまま、レイが凄惨にそう嘲笑する。だがミオに向けられたその笑みはとても悲しげで不恰好なものだった。

「ほらな誰も助けちゃくれない。お前も見捨てられたんだ。散々利用されて、こんな島に捨てられて、こんな目に遭って。ははっ馬っ鹿じゃないの。お前ももう終わりなんだよ」

 その笑みがあまり哀れに思えて、破瓜の痛みと恐怖に自身の頬に伝っていた涙が急速に冷えていくのをミオは感じた。

(ああ……この人は……)

 こうして見上げてじっくりと見つめてみると、悲しげに歪められた漆黒の瞳は思ったよりもずっと幼く見える。表情が固く険しかったために大人びて見えるだけで、本当はミオとさほど年は変わらないのかも知れない。

(この人は……私と一緒なんだ、いえ、違う)

 いや自分なんかと比べるのも烏滸がましい。無理矢理こんな世界に召喚されて訳も分からぬまま勝手に勇者呼ばわりされて、命懸けで無理矢理戦わされて、それでも彼はこうして頑張って戦って生き抜いてきたのだ。

 それなのに自分のような役立たずを嫁として押し付けられて元の国に帰るのを我慢させられようとしている。

 そんなのあんまりじゃないか。

 それは無意識の行動だった。

 ミオは自分を犯している男の、自分を見下ろすレイの頬にそっと指先で触れる。

 その感触にレイは一瞬はっと驚いた顔をした。そしてその指先に自身の手を重ねる。振り払われるかと思ったが彼はミオの手を振り払おうとはしなかった。

「ふざけんな……っふざけんなクソが……っ!」

 そのままレイは顔をくしゃくしゃに歪めて悪態を吐く。

 自分を組み敷いて痛めつけているはずの彼の方がよっぽど痛くて辛そうな顔をしていた。

「こんな世界嫌いだ……っ月が二つもある世界なんて知らない……っ、魔物がいる世界なんかもう嫌だ……っ」

 そう言って彼の漆黒の瞳からはらはらと透明な雫が伝い落ちる。そしてそれはミオの白い胸元に雨粒のように落ちていく。

 とても綺麗な涙だ。

 ミオは不謹慎にも彼の涙をそう思ってしまう。

「東京に帰りたい……家に帰りたい……!」

 子供の
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